夢追い人

新年を迎えて数ヶ月
暖冬だとは言っても、夜になれば足元から冷える
進路が決まった私は少し早い春休みに入っていた


新幹線ホーム
最終の新幹線を待ってる人は少ない
彼は行ってしまう
夢を叶える為に遠くの町へ
私は見送る
夢を叶える為にこの街に

手を繋いだまま他愛もない会話をしていた


「昨日バイトの面接に行ったんだけど、オバサンばっかりでちょっと残念」
『何のバイト?』
「今までした事ないバイトがしてみたくって、クリーニング屋さんに決めた!」
『おー何か珍しい仕事やな』

ーまもなく19時39分発 新大阪行きが入りますー


繋いだ手に力が入った
ドキドキして今にも泣きそうだった
でも泣かない
彼の夢を応援すると決めてから、彼の前では泣かないと決めていた
下唇をグッと噛む


「風邪ひかない様にね!」
『お前も食べ過ぎて、久しぶりに会って別人になっとったりとかなしやで?(笑)』
「もー!!・・・でもありえない事ではないかも」
『おいおい( ̄□ ̄;)!!』
「なるべく気をつけるよ!」
『なるべくて・・・まぁ楽しみにしとくわ」


ーまもなくドアが閉まりますー


「じゃ!頑張ってきてね!!期待してるよ!」
『ありがとうな』


ドラマみたいにギリギリまで抱き合ってキスなんて出来ないけど
いつもみたいに穏やかに笑い、くしゃくしゃっと私の頭を撫でた
新幹線のドアから離れる時、彼は小さな箱を渡してきた


『お守りやから、身につけといて』


ドアは閉まり新幹線は彼を乗せて走り出した
いつまでも笑顔で手を振り続けた


男は気付いていた
彼女に遠くの街に行くことを告げてから、彼女が泣かないようにしていたことも
陰で泣いていたことも
今優しい言葉をかけてしまえば、せっかく彼女の決心を鈍らせてしまいそうで
気付かないふりをしていた
最後まで笑顔で見送ってくれた
一番大切な人が強がる姿が胸を刺し痛くて車内で泣いた

 

新幹線が見えなくなっても、すぐ動くことが出来なかった
その場に座り込み右手をずっと見つめていた
ついさっきまで触れていた彼の手の温もりを思い出していた
暗闇をギラついた光が鬱陶しいくらい照らしていた

 


「ただいま・・・」


誰に言ったわけでもなく、小さく呟いていた
真っ暗な部屋と、かすかに聞こえる車の音に
ますます独りを実感させられた
何も考えられなかった
何も見えなかった
これからどうなるのか分からなかった
一人取り残された気分だった

そういえば、さっき何か渡されたんだった

フラフラ歩きながら部屋の電気をつけ、ポケットから箱を取り出した
そっと開けてみると中には赤と青の星型のピアスが1つずつと小さな紙切れが入っていて

【がんばれ】

癖のある字でそう一言だけ書かれた小さな紙切れから、不器用で彼らしさが伝わってきた
どんな言葉より気持ちが伝わって我慢していた涙が溢れ出ていた
赤は私が好きな色
青は彼が好きな色
星は二人の夢の象徴
片方ずつなのは、もう一つを彼が持っているから

「ピアスって2つで1つだから、片方ずつ付けてたら同じもの持ってるより、もっと深い所で繋がってる気がするんだよね」

その言葉を彼は覚えていたんだ
そんな1つ1つの理由が説明しなくても通じてることが余計に苦しかった
離れて改めて彼の存在の大きさが身にしみた
思ってた以上の痛みをどうすることも出来ず、ただひたすら泣くことしか出来なかった

 

 

 

若いなー(苦笑)

 

拍手より移動

随分前に書いたのを見つけてアップしてみたんですが

色々若いなーって思うところがありましたが

それはそれでいいか!とそのままアップです

これ見ると先日の

 「お前危ないから黄色い線の後ろまで下がれ!危ないあぶない!!」

を思い出します(笑)